2016年5月5日木曜日

インフレと低金利_4 : 「お金」の需要は?

(1)景気が回復しても、さらに金利が下がった
アベノミクスでそれなりに景気は回復した。
それにも関わらず、金利は史上最低水準を更新して低下を続けた。


(2)借金需要と債券投資需要
お金を借りたい人が増えれば金利が上がり、減れば下がる。
お金を借りたい、これは需要サイドの話だ。
お金を借りたい人が増えても、それ以上にお金を貸したい人(=供給サイド)が増えれば、金利は下がる。

借金の証文(=債券)が欲しい(=投資したい)人が増えれば債券価格は上がる(金利は下がる)し、減れば下がる(=金利が上がる)
債券に投資したい、これは供給サイドだ。
債券に投資したい人が増えても、それ以上に債券を発行したい(=
需要サイド)人が増えれば、金利を引き上げなければ債券を発行できない(=金利は上がる)。

(3)日本の金利に関係する需給動向
現在の日本の金利を取り巻く需要サイド供給サイドの状況はどうなっているのだろう。図で説明したい。


リーマン・ショック以前の金融不動産バブル景気、その後の中国の4兆元経済対策バブル景気、これら二つのバブル景気が崩壊した。

その後は、最悪期を脱して世界景気は米国を中心に改善を続けているが、その回復は弱々しい。
需要の回復増加分は海外工場の稼働率改善で十分に事足りるので、日本国内の設備を増強するほどではない状況だ。
バブル景気時に旺盛だった資金需要、なかでも重厚長大産業からの資金需要は下がり続けている。

一方、外国人観光客の増加や熟年世代の旅行ブームに伴うホテルなど旅行関連設備の増強、および2020年の東京オリンピックに向けての競技施設やインフラ整備は、国内の資金需要を増大させている。
しかし、最近の東芝やシャープに代表される家電産業のリストラの動きや、低迷を続ける中国向けの産業の慎重な態度から、製造業の資金需要は冴えない。
前者のポジティブな面は後者に相殺されて、全体としての資金需要は低調なままである。

なお、日本の長期的な経済構造は巨大な資金を必要とする製造業から、あまり資金を必要としないサービス業へと移行を続けており、その面でも資金需要は過去ほどの盛り上がりは期待できない。

以上は「借金の需要」に関するものだが、では「債券に対する需要」はどうだろう?
リーマン・ショック以前のバブル景気、その後の中国の4兆元経済対策バブル景気の両方が崩壊して以降、リスクを回避する動き(リスク・オフと呼ばれる)が顕著になり、株式よりも債券を選好する傾向が強まった。

株から債券へと資金がシフトした結果、世界中の金利が急速に低下した。
異常とも思えるほどの低金利になっても、リスク・オフ状況は続いており、債券へ投資する資金量は増え続けている。
世界中の投資資金の過半数は、そもそも株には投資しない、または投資できない資金であり、その巨大な資金は金利が大幅に下がっても債券市場の中をぐるぐると回り続けている。



そんな中、2016年1月29日に日銀がマイナス金利の導入を発表した。
銀行に対し、手持ち資金を融資など経済活動の活性化に資する事に使わずに、
余剰資金を日銀に預ける(=当座預金)なら、その一定割合の残高に対しマイナス金利を適応するという強権発動に出たのだ。

マイナス金利は欧州では2年ほど前から導入されているが、経済の活性化の金融政策として効果があったのか? または金融機関の体力を弱めただけに留まったのか?
その評価は分かれているが、
市場の評価は欧州銀行株の大幅な下落となっている。

日本の銀行に対するインパクトは、今後の日銀の態度次第だが、現状では「▼7%~▼15%」の利益減少というアナリストが多いようだ。
現状のマイナス金利は「-0.1%」だが、「-1.0%」程度までを予想する元日銀関係者もおり、仮にそうなれば、銀行収益に与える悪影響はさらに拡大する。

日銀のマイナス金利導入後、日本でも銀行株の株価は大幅に下落した。
欧州銀行の苦境が邦銀に再現するとの懸念によるものだった。


(4)企業の行動の変化が期待されている
安倍政権は企業の経営態度に大きな不満を持っている。
アベノミクスが採用した金融財政政策(金利低下、円安、財政支出)で、景気が好転し企業の利益は増大した。特に製造業は大幅な円安による利益の増大が顕著だった。

それにも関わらず企業の経営態度は委縮したままで、積極的な企業行動(国内で積極的に、人や設備を増やす)をせずに、利益を社内に貯め込んだまま何もしない
増配や自社株買い戻しなどの株主還元にも消極的で、安倍政権が進める社外取締役の採用などコーポレート・ガバナンスの強化にも後ろ向きの企業が多い。

企業の
ため込んだ利益の多くは、現預金と債権に投資されている。これも異常な低金利の一つの原因となっている。

一方、工場の新設や増強は、「人・物・金」への集合体投資である。
企業の合理的な投資判断は「どこに工場を作るのが、最小の投資で最大の利益が得られるか」という経済計算に依存する。

企業は慈善団体ではないのだから、日本に工場を作るという判断になるためには、工場を誘致する立場の国家として、世界の国々に伍して工場誘致環境を整備する必要がある。

そのためには、法人税の25%までの低下と、それを相殺する消費税の増加という世界の流れに追いつくこと、そして日本流に固執せずに世界標準に合わせる規制緩和は、必須であろう。

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