2016年5月4日水曜日

インフレと低金利_3 : 「物」の需要は?

(1)リーマン・ショック後のインフレ状況
内外のインフレの状況を見ると、リーマン・ショック後の最悪期を通過した後、米国中国の二か国の消費者物価指数は大幅にリバウンドした。
しかし、その後は低下基調になった。


一方日本は、リーマン・ショック後も依然としてデフレが継続していたが、アベノミクスの始動とともに穏やかなインフレが発生した。
しかし2015年以降になると、費者物価指数は急速に低下した。


(2)中国の4兆元の経済対策で高騰した資源エネルギー
2010-2011年にインフレが発生した原因は、中国がリーマン・ショックによる世界経済の低迷の悪影響を懸念して、4兆元の経済対策という財政出動の大盤振る舞いをしたからだ。

財政出動は「財源の約70%を負担する地方政府」が主体であったが、いずこも鉄とセメントを大量に消費する「建設不動産などの箱もの投資」に傾注した。
その結果、中国は世界中から資源エネルギーを買い漁った。資源エネルギー価格は高騰した。




しかし・・経済対策が一巡した後に残ったものは、
1:稼働率が極端に低下した製鉄所、セメント工場、建設機械
2:建設途上で放置されたままの大規模マンション
3:さらには返済の目途が立たない地方政府や国営企業の巨額の借金
・・・であった。


(3)中国の爆買いが終わって、資源エネルギー価格は暴落
大盤振る舞い的な経済対策は「大規模な環境破壊」という副作用を引き起こした。
また江沢民政権時に始まった高い経済成長だが、それは巨額の汚職(金権政治体質)を蔓延させた。

経済成長の恩恵に浴さない大多数の中国国民は、(1)進行する貧富の格差と(2)水や空気が耐えられないほどに汚染された居住環境に怒りを覚えて、各地でデモを頻発させるようになった。

そのような民衆の不満を感じつつ2013年にスタートして習近平政権は、汚職撲滅、綱紀粛正、省エネ、環境改善を打ち出したが、その政策は短期的には経済成長を抑える要因となっている。

習近平の綱紀粛正政策は長期間にわたり継続されるという理解が世界的なコンセンサスとなるにつれて、「今後長期間にわたって資源エネルギー消費はバブル時代のレベルには戻らない」と判断されるようになった。

原油価格(下図)をはじめとして資源エネルギー価格(上図)は、大幅な暴落を演じた。


(4)資材価格は世界が決める
主に国内で取引される資材価格に関しては、国内の経済状態の需給できまる。
しかし、
多くの資材は国際的な商品であり、国際経済の帰趨で価格が上下する。

アベノミクスの始動により、悲惨な「円高&デフレ・スパイラルの悪循環」から脱することができた。
しかし、2015年5月の浜田内閣参与と黒田日銀総裁の「過度な円安を牽制する」発言が出たことを契機に、7-9月期から円高トレンドに転換してしまった。

加えるに、原油をはじめとする資源エネルギー価格の下落が加速した。
「円高+資源エネルギー価格下落+中国経済の不振」により、関連の国内物価(ガソリン、電気、ガス、素材製品など)が下落に転じ、政府と日銀が目指す2%インフレの達成は頓挫した。

これは日銀の金融政策やアベノミクスが失敗したわけでは無い。
外部経済環境が大きな逆風に転じたことが原因であり、日本一カ国ではコントロールできない

現在の日本経済は、アベノミクスにより好転している。
そして、外人観光客の大幅増加と2020年のオリンピックに向けて大規模な建設活動が計画されている。

しかし、そういう国内経済活性化要因、中国をはじめとする国際経済のモメンタム低下と円高という国際経済沈静化要因を打ち消すには足らないのが足元の日本の現状だ。