2015年12月11日金曜日

2016年を考える_2_第一部:経済と社会のメガ・トレンド_2:グローバルな構造要因

*** 2016年を考える_2 ***

第一部:経済と社会のメガ・トレンド_2:グローバルな構造要因

(1)新興国との競争は終わらない
1990年代以降、先進国ではJobless Recovery(景気や企業業績の改善の割には、雇用の改善が見劣りする)が続いている。


その背景は、1990年以降に起こった経済的な意味での国境の消滅、グローバル化だ。

企業は国際化してマルチ・ナショナル企業として国境を越えて活動している。
どこで何を生産して、どこで販売するのが最も儲かるか、それを真剣に考えて日々行動している。
2000年代中盤に起こった新興国ブーム期には、生産部門が先進国からコストの安い新興国に大量に流れ出した。
新興国には新しい職(Job)が大量に生まれ、先進国では職(Job)がジリ貧になった。

先進国でやるべき職の内容に関して、製造そのものから、何をつくるべきか、誰に何を提供するべきか、いわゆる「意思決定」に関する部分に比重が移った。

企業が先進国内で資金を投ずる分野も、製造機械や工場ではなく、意思決定を効率化、正確化する「ソフトウェア、人材」などにシフトしている。このトレンドはまだまだ進行する。


(2)スキルの有無がどんどん重要になって行く
先進国の労働者全員が等しくダメージを受けているのではない。
国や企業が、先進国内で投資する(高い賃金を払う)人間とは、判断・創造、企画立案決定する人間であり、彼らはグローバル化による受益者だ。

労働者間の格差は過去以上に大きくなるだろう。
機械の品質や工場の生産性に差を認識して、それらに格差を設定するのは簡単だが、人に対する格差を設定するのはスムーズにはいかない。
しかし先進国では、人間に対するフェアで適正な格差設定が進んでいくだろう。

米国においても同様なトレンドが進行しており、11月のFTには特集記事が掲載された。
新興国の労働者と競合する労働者(主に、15-54歳)の失業率が12%まで上昇した。(下図左記事)
そして、労働市場から締め出される人が増加し、その結果労働参加率は低下を続けている。(下図右記事の左側チャート)
一方、65歳以上の高齢者が働き続ける割合がジリジリ上昇を続けている。(下図右の緑枠内チャート)


経験を積みスキルを持つ健康な高齢者は、企業にとっては今や求められる人材であり、同時に彼らも長生きリスクに対応して働き続けることを希望している。企業と有能な高齢者の利害が一致したのだ。


(2)人材に投資しても全体ではコスト・セーブ
企業は合理的に行動する。そうしなければ世界との競争で落後する。

新興国に工場を移せば先進国で同じ工場を設置するよりも安価でできる。そこで削減されたコストの一部を、先進国内の「意思決定を効率化、正確化するソフトウェアや人材」に投資しても、全体としてはコスト・セーブになる。(下図参照)
意思決定を効率化、正確化するソフトウェアや人材」への投資は企業の競争力の強化に資する。
コスト・セーブと競争力強化が同時に達成できると企業は合理的に判断するから、このトレンドは続いていく。

 

(3)労働者の均質化は遠い過去の話へ
1990年代から顕著になったグローバル化の進展により、先進国の労働者は「非均質化」のトレンドが進行している。

国や企業から多くを期待され、投資される人、この人々は浮かび上がります。
一方、新興国労働者との競争の影響で待遇が劣化してしまう人々も生じ続けます。そのままの雇用条件では企業自体の存続が不可能になるからです。

先進国の労働者は、努力して「国や企業から投資される人」になる必要がある。これは世界中の先進国の労働者に共通の生活環境であり、おそらく21世紀中にわたって継続するトレンドだと思われる。