2016年2月26日金曜日

2016年1-2月の相場下落_1: 第一部:相場下落の背景

(1)原油価格の下落が経済全体への不安感を引き起こした
2015年末から始まった「イランとサウジの国交断絶騒動」以降、株式市場は一気にリスク・オフに突入した。
年明けの1月、2月は株式市場の下落が進行し、先進国株指数(MXWO)は2015年5月の高値から20%近く下落した。

下落の引き金となったのは、資源エネルギー関係の商品価格、特に原油価格が大幅に下落し、そのことが世界経済に対する不安感を引き起こした。

上のチャートを見れば、2014年の夏以降に原油価格の下落が加速し、それに呼応する形で資源エネルギー企業に投資するファンドであるMLP価格の下落、および優良債権と高利回り債権の利回り格差、つまり信用コストの上昇が始まったことが分かる。

当初は資源エネルギー産業だけの問題と認識されており、世界の株式は影響を受けなかったが、昨年の夏頃から「商品価格の全面的な下落は世界経済のリセッションに繋がるのではないか?」という懸念が徐々に広がり、年末のイランとサウジの国交断絶を引き金に一気にリスク・オフとなった。


2000年代中盤、商品はスーパーサイクルだ、原油価格の$300、ゴールドの$3000は通過点に過ぎない、などと言われた。
特に原油価格は、「枯渇するのだから、価格は青天井だ」というブームになった。

 

しかし、経済が低迷し需要が後退すると、価格は大幅に下がった。
経済の需要と供給の法則がシッカリ機能した。

加えるに、米国のシェール革命による安価なシェール・オイルの増産も原油価格下落に追い打ちをかけた。


スーパーサイクルの当てが外れてダメージを受けた人は多い。
1:開発業者は、資金はいつでも集められると安易に考えて、10年、20年という長期の開発案件を4~5年ごとに複数回に分けて、しかも投機生の高い資金に依存する形で資金調達した。
2:投資家は強欲に目がくらみ、少々怪しい案件でも、将来は原油価格が上がるのだから採算は問題なしと甘い解釈をして、開発案件に投資した。
3:産油国は、「今後は原油価格が$100以下になることは無い」と考えて、国民に大盤振る舞いのバラマキ予算を策定した。

しかし全員が、経済の需要と供給の法則で下落した原油価格を目の前につきつけられた。
投資家は新規投資、追加投資を拒否し始め、その結果開発案件は資金不足で頓挫しつつある。そして産油国は財政危機に陥った。



(2)先進国経済が「主」、原油価格や新興国は「従」
現在の状況を全体的に俯瞰すれば、
そもそも新興国の経済成長は、自国の内部成長ではなく、先進国への輸出という外部に依存している。

前回の新興国の経済成長ブームは、
1:先進国が住宅金融バブルになり、先進国に超過需要が生まれた
2:ブローバル競争に勝ち抜くために、先進国企業がコスト削減を狙って新興国へ工場移転を大挙して実行した。

これらが同時におこったために、多くの人が新興国に関して、
あ:足元の投資ブームは過大ではない
い:高成長は長期間維持される
と言う間違った判断をしてしまった。

 

原油価格や新興国経済の復活に関しては、「主」である先進国経済が復活する必要がある。「主」が元気にならないと、「従」は復活しない。逆はありえない。

21世紀は20年足らずの間に三回のバブル崩壊を体験した。
1:1999~2000年にかけて発生したITバブルの崩壊
2:2006~2007年にかけて発生した住宅金融バブルの崩壊
3:2008~2012年にかけて発生した新興国&資源エネルギー重厚長大産業のバブル崩壊

三回目のバブルは、多岐にわたる分野でバブルが発生し、そのバブルの程度も先進国と新興国のすべてを巻き込んだ壮大なスケールだった。
それゆえに、そのバブル崩壊は、まるで複雑骨折のようなダメージを世界経済にもたらした。

単純骨折なら治りやすいが、複雑骨折は完治まで治療期間が長くなる。
バブルに踊った国、産業、企業は、長期間の低迷を余儀なくされるだろう。

 

現在、資源エネルギー価格の低迷、素材産業の苦境が言われているが、その低迷や苦境はそう簡単には克服できないと理解するべきだろう。

原油だが、20~40ドルのボックス相場が長期間続くと判断している
1985年の原油価格の暴落後も、長期ボックスとなり、それは約15年間、1999年まで続いた


なお、資源エネルギーと新興国の長期反映を信じて、大量の船が造られた。しかし、船はなかなか腐らない。

猛烈に増加した船のキャパシティとバブル崩壊で減少した需要という状況に素直に反応して、船賃は最安値まで下落した。(下図右のチャート参照)