2016年7月28日木曜日

中国の民主化 (4)民主化へつながる政治制度も変更が起こる条件

1:政治制度の変更が起こる条件1:政治的な強力なリーダーシップ
制度は「他の者を犠牲にして特定の社会集団に恩恵を与える」性質を持っている。つまり制度は「えこひいき」を内在している。また、制度は「正しい制度だから維持するべきだという保守性」を内在する。

制度が「超過受益者」を発生させ既得権益層を生む。
そして制度変更は、受益者・既得権益層の変更を伴うので、現在の既得権層は必ず反対することになる。

社会の中の主たる貢献者は時代とともに変化する。彼らに報いるために制度を徐々に改善することが必要だ。
現制度の受益量が45、新制度の受益量が55なら、国としては新制度に移りたいが、現制度の受益者は強力に妨害する。それを跳ね除けて制度を変えるには、強力な政治的指導者を必要とする。

暴力による変更(フランス革命、南北戦争、明治維新)であれ、説得による変更(名誉革命、特異な例)であれ、いずれの場合でも、政治制度の変更には政治的な指導力が必要だった。
指導力とは、権力を持たない集団を集め同盟を作る能力であり、指導者は、権威、正当性、カリスマ性、思想の卓越性、脅迫能力、交渉能力、組織能力を駆使して、主張を実現させた。今度もそれは変わらないだろう。


2:政治制度の変更が起こる条件2:新受益者の政治的な動員
政治制度の変化を起こすには、新制度の受益者が政治的に動員されることが必要だ。
いわゆる民主化の場合は、民主主義の方が「より多くの分け前にあずかれる」と思う人々が、政治的にデモや集会に動員されて初めて実現する。

民主化すれば、社会全体が受け取る分け前を増やせるか、単に既得権層から奪って分配するだけの一時的な富の移転で終わるかは、民主化された社会が短期で終わるか持続的に成長できるかの分水嶺である。

「分け前の源泉を増やせる」とは、貿易、経済発展、地理的な勢力圏の拡大からくる恩恵が増加するということであり、その結果増加した恩恵を国民に配分できる。

第二次世界大戦USが主導した「世界を民主化する国際政策は『民主化は恩恵を増やせる』ことを証明した」と言われる。
ただし、
USの経済援助が経済的な恩恵の主要因であって民主化とは無関係かもしれないが、民主化なければUSの援助も無かったことも考慮しなければならない。
また過去約30年の東アジアと中国の経済発展をどう解釈するかだが、これも民主化(もしくは民主化への期待)を背景に、USが輸出品を受け入れる市場(=経済発展の餌)を与えた結果に過ぎないと推定できる。

経済成長はその恩恵を享受する新勢力(工業勢力、商業勢力など)を生んだ。
欧州では、その新勢力を政治的に「まとまった勢力」として動員できたから、王権に対抗する議会勢力が生まれ、最終的に民主化が起こった。

現代でも、政治的な動員の代表はデモである。
中国がデモを厳しく規制するのは、デモこそが現代における「政治的な動員」であり変化(=共産党一党独裁の否定)の端緒であることを十二分に理解しているからだ。

3:政治制度の変更が起こる条件3:社会契約としての分け前
人々はボランティアで動員に応じるわけではない。分け前に預かれることを期待して参加するのだ。

分け前は一種の社会契約として社会にbuilt-inされ、分け前の配分が長期間にわたって滞ると支持者が離反し、その社会は崩壊する。

ソ連や東欧諸国では「近代化による経済的恩恵と平等実現」の約束を果たせなかった。
国民は、約束を果たせない政府の正当性を否定した。1989年11月のベルリンの壁崩壊以降の東欧とソ連の崩壊劇は、まさに政府へのダメ出しが起こったのだ。

では、中国の社会主義はどうだろう? 
中国国民に対する約束とは「近代化による経済的恩恵と平等実現」だが、中国共産党は約束を果たしているのだろうか?

1978年以降の鄧小平が始めた改革開放路線による経済成長が国民を豊かにし、衣食住のレベルを改善してきたことから、共産党が約束を果たしているとの信認が維持されているだろう。
仮に果たしていない場合でも短期なら弾圧と恐怖政治で国民の不満を抑えつけられるが、長期的には経済成長による分け前が無ければ不満が爆発して、政府はダメ出しを食らうだろう。

4:政治制度の変更が起こる条件4:既得権者への手切れ金
制度が変更されるとき、現在の受益者が自ら進んで新受益者に権益を譲渡することはない。
制度変更を容認してもらうための一種の手切れ金が必要になる。それは内戦や暴力的な破壊を防止するために必要なコストと考えるべきだろう。

5:経済成長を導いた政府に、国民は正当性を与える
経済成長は、衣食住の改善などを通じて、目に見える成果として分け前が国民に配分される。
だから、USも日本も、そして中国も程度の差こそあれ「経済を優先」する。

シンガポール、マレーシアなど、東アジアの途上国の多くは欧米的な民主主義ではないが、経済成長のおかげで「人民の支持」を得ている。
 
経済成長が無くなれば、分け前を与えられなくなる。
ゼロサム・ゲームのパイの奪い合いが始まり、国民の不満が高まる。

恩恵が社会上部の少数グループだけ配分される場合、貧富の差が顕在化して現状の政治体制に反対する社会集団の動員が起こる。

貧困層は国民所得の「自分の取り分」を求めて戦い始める。USの茶会やトランプ現象も似たような背景があると思われる。