2016年11月19日土曜日

トランプ大統領登場 (1)ヒラリーの敗因

1.オバマ政権の一員では現状を変えられない
「とにかく変わって欲しい、現状が不満だ」という有権者の意思(=民意)が強かった。
明日のパンの問題(=格差是正)を解決できなったオバマ政権とヒラリーは同類とみなされた。
ヒラリーはオバマ政権の一員だったから。
それほど、オバマ政権の8年間の期待裏切りが大きすぎた

今回のUS大統領選挙で顕在化したことは・・・
1:経済成長が無くなれば、分け前を与えられなくなる。
2:ゼロサム・ゲームのパイの奪い合いが始まり、国民の不満が高まる。
3:恩恵が社会上部の少数グループだけに配分される場合、貧富の差が顕在化して現状の政治体制に反対する社会集団の動員が起こる。
4:貧困層は国民所得の「自分の取り分」を求めて戦い始める。
・・・・という事で、茶会運動やトランプ現象も似たような背景だ。


2.アンチ・リベラルが民主党を離れた
民主党の行き過ぎたリベラル化による穏健保守派の民主党員の離反
特に、かつての支持基盤であった「カトリック信徒、アフリカ系、南部白人、労働組合」の民主党離れは顕著だった。

初の女性大統領という願い(理念)はあったものの、それよりも緊急性の高い問題として経済格差是正、安心して暮らせる社会保障の充実という利益が求められていた。

一方、民主党のリベラル派が目標としてきたマイノリティ出身の大統領、女性大統領は、オバマによって部分的に実現してしまっていた。だから2016年の大統領選挙では女性でなければ!という欲求は後退していた。

女性候補ではあるが、establishment(格差の勝ち組、富裕層)になってしまったヒラリーは失格で、むしろpureに格差是正を訴えるサンダース(男性であったとしても)の方が好ましいと思う人が民主党内部には予想以上に多かった。

2016年の選挙のfirst issueは経済問題だったのだ。人権やマイノリティではなかったのだ。そしてその解決を担当する非establishmentが求められていたのだ

民主党の最大の応援団は労働組合だが、彼らの考え方は「気候変動や妊娠中絶の権利を主張するフェミニズムなどを推進するリベラル派」とは程遠い保守的なで非リベラルだ。明日のパンには関係のないリベラル派の行動には反感を持っている。
だから、1970年代以降に民主党が「頭デッカチのリベラル(環境問題、反戦運動、女性問題にシフト)」にシフトしてしまい、それに違和感を覚えた労働組合員が離反してしまった。

その労働組合内の反リベラル的な人々の不満をトランプがかっさらってしまったのが2016年の大統領選挙だった

そもそも労働者層は、経済的利益の観点からは1930年代のルーズベルト大統領のニューディール政策に代表される大きな政府を志向する民主党に近いが、文化や規範という理念に関しては自助努力と勤勉を説くレーガン政権以降の共和党と親和性がある。

大学のキャンパスを中心としたベトナム反戦運動の時代、「ハード・ハット」と言われるヘルメットをかぶった建設労働者は学生運動に対して「金持ちの息子や娘の勝手気ままな行動」と感じ、ベトナム戦争支援へと傾斜して行った。
彼らは学生が反戦運動に際して星条旗を燃やす行為に怒りを覚えたし、9・11同時テロ後の世界貿易センター跡地にモスクを建設することに反対し、「ムスリム進入禁止」のステッカーをヘルメットに貼って建設作業をしていた。
2016年の大統領選挙においても、ハード・ハットの白人労働者がトランプの集会の多数駆け付けた。

民主党支持者には、口では応援するけど、選挙人登録までは面倒だという政治意識の低い層が多かったかもしれない。
特にサンダース支持者は、格差是正、気候変動、移民制度改革など自分の争点にこだわって候補者を応援するが、民主党の大統領を誕生させたいとか、議会で多数派を得るとか言う点では一体感をもっていない。
その結果、サンダースが民主党の大統領候補にならなかった時点で、選挙人登録をしなかったり、投票に行かなかったりという傾向が見られた。

一方共和党は分裂していたとは言え、White House奪還という点では、民主党よりは一体感が多かった。
この微妙な差が勝敗を分けたのだろう

また、下記は日本では報道されないが、USでは重要な論点である。
日本は無宗教が大多数だから無視している論点だが、人工妊娠中絶の権利をめぐる対立が米国では大きな問題になっている。
カトリック教会は民主党の応援団だが、中絶には反対してきた。
一方、リベラル派のフェミニストは中絶の権利は絶対に譲れないと主張してきた。
敬虔なクリスチャンである黒人層も「同姓愛嫌悪や人工妊娠中絶反対」という思いから、過度にリベラル化した民主党に違和感を持ち続けてきた。

そんな中、オバマ念願の医療保障改革に際して「中絶や避妊を保険適の応対象にするか否か」で、民主党は再度大論争になった。そのために、2016年の大統領選勝利という目標で民主党は一枚岩になれなず、カトリック教徒や敬虔なクリスチャンである黒人層の民主党離れが加速した。

3.民主党、共和党に共通することだが、Anti-establishmentを求める雰囲気が醸成されていた

投票分析を見れば、白人女性、熟年世代、高所得層など、ヒラリーの仲間、同類層に嫌われていた。ヒラリーは、上から目線の高慢なestablishmentの人間だという評価が定着していた。

彼女以外を求める声が大きく広がっていたのだ。

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