2016年11月19日土曜日

トランプ大統領登場 (3)世界の政治と経済への影響

(1)US国債は大量発行へ向かう。
減税をする一方で景気刺激の財政出増を増額するのだから、その穴埋めは国債発行になる。国債需給悪化と景気改善の両面から長期金利は上がることになる。
長短金利差が拡大するだろうから、ローンビジネスの利益率が上がるので、銀行は恩恵を受けることになるだろう。
 
USは、景気失速ではなく、景気過熱に向かうと判断できるし、ドルも上がってしまうだろう。それは既に起こっている。

(2)無理して高金利だがリスクの高い新興国債券に投資しなくても金利の上昇したドル債券に投資すれば良いと思う投資家が増えるだろう。

一方、ドル高と金利高でドル資金のファンディングのコストが上昇するので、それに依存する新興国は苦しくなる。
そして新興国に関する懸念は、新興国企業のレバレッジの高さだ。本業で儲かっていても、借金の金利負担の増加が大きいので利益が吹き飛んでしまうかもしれない。最悪の場合は、借金や債券の借り換えができずに「黒字倒産」してしまう可能性もある。先進国の投資家が新興国企業の資金の借り換えに応ずるか否かは、今後は問題化するだろう。
12月に想定される利上げに続き、トランプ新大統領の経済政策が押し上げる長期金利のレベルによっては、投資家の新興国離れが加速するかも知れないし、その時は短期的ではあっても市場のvolatility大幅に上昇するだろう。

なお、1996年以降のロシア&アジア危機による新興国からの資金流出とその結果としての先進国への資金流入は、当時勃興しつつあった米国IT企業への過度な資金流入を発生させた。現在足元で起こりつつある米国への資金回帰が、どこに向かうのかはアンテナを高くして観察したい。規制が緩和されそうな金融分野、中でも不動産の証券化は要注意だ。

(3)これまでの「民主党大統領と共和党議会というネジレ状態によって、何も決められない米国」という状況から、「大統領も議会も共和党だから決められる」状態になった事は大きな変化だ。

一方、株式市場は政治が法律や制度などが変わらずに安定している状態を好む。コロコロかわると長期的な経営計画を立てられないからだ。
その意味では今後は市場のvolatilityは大きくなるだろう。

なお、日中米三か国の政治が同時に安定する状態を迎えるので国際的な懸案事項を解決するには絶好のチャンスだ。

オバマやヒラリーが拘った人権問題は米中間の交渉を暗礁に乗り上げさせたが、トランプの「実務的に落とし所を探るビジネス・ライクな外交政策」は、関税引き上げを脅しとして使いながら「中国を交渉のテーブルに付かせる」効果があるだろうし、同様な事は北朝鮮やロシアにも効果的だろう。

(4)海外の国や地域と民族に対する介入と軍事力の海外展開に関しては、レーガン政権以降に徐々に問い直されてきた。

オバマもその線に沿っているという点では海外展開の縮小路線だった。
そして、トランプの外交政策(=国内重視)も、オバマ時代の「海外ではリスクを取らない外交政策」の延長線にある。言葉では米軍退論という過激な言葉を使っているが、「オバマの海外ではリスク取らない」戦略をさらに進めるものだ。

なお、キッシンジャーの国際戦略に関する下記の5ポイントの指摘が的確だと思われるが、特に3,4,5は重要だろう。

1:同盟戦略とは元来、世界規模で解決不能な諸問題が存在するという事実から発生するものだ。その戦略は同盟相手と米国の国益を反映したものでなければならず、それによってその特別な関係性は定義される。指導者たちは執務室で同盟の評価を重ね、その評価を基礎として(同盟を)修正しなければならない

2:多くの同盟関係はソ連が大きな脅威だった時代に生まれたものだ。今、新しい時代において脅威の内容は違っている。それだけ取っても、すべての同盟は再考されなければならない。新しい現実に立ち向かうため、前向きな意味で再考すべきだ、ということだ

3:我々にはいまだに多大な影響力がある。一方で、我々は他の地域の国々を理解しなければならず、彼らの意思決定についても思いを寄せなければならない。言い換えれば、米国によって彼らの意思は決められない。それは米国にとって新しい経験といえる

4:何がルールになるのかについて同意を作り上げなければならない。そのルールとは『単なる国境』は変わり得るという考え方かもしれない。そして各国間の交渉で、そのルールも修正されなければならない


5:戦後欧州の振興をみれば、常に問題となったのは『すべての国境は神聖で、犯されるべきものではないのか』ということだ。その後、『ヘルシンキ宣言』で『それらのルールは交渉と合意によって変わり得るのだ』と言った。それは重要なステップだ。だから、多くのルールが各国間の関係を規定するという概念は今もとても重要だと思う

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