2016年7月30日土曜日

中国の民主化 (6) 現在の中国

1:人治の国、中国の将来
中国の指導者や高位の官僚は、ずば抜けた頭の良さと心身の強靭さを持ち、彼らの持つ実力を実績で証明してきた共産党員の集合体だ。
中国では、実績のある人に統治を依頼する
「実績主義の人治」が基本となってきた。

抜群の実績を示した人に対し、多くの国民は彼の支配権力を容認する(=天命があると考える)。そして、一旦社会的な合意が形成されると、その後はよほどのことがない限り意義申し立てをしない国民性がある。国民は長期間我慢するが、限界に達すると暴動や騒乱を起こし、王朝を崩壊させる歴史が繰り返されてきた。

(1)現在の中国は、強力な国家であるが・・・
GDPが世界第二位にまで成長した中国は大国に成長したが、心と体の成長がアンバランスな思春期の人間の状態だと欧米からは揶揄される。

そして、一党独裁国家ゆえに自らの正当性が棄損されることを極度に警戒する中国共産党の特徴は、下記のような政治行動に明確に表れている。

1:国力の誇示にこだわり、過剰な演出に注力し誇大表示を当然視し、不都合な真実を隠すという行動特性がある。これは、共産党があったから現在の強い中国があるという国内向けの権力誇示であり、権力維持のための体制引き締めを目的としている。

2:放送局、出版社、インターネットなどの各種メディアに対して恣意的な制限をするために強権を発動するような非民主的な行為が目立つが、これは北朝鮮や中国をはじめとする独占体制国家では一般的な傾向でもある。

(2)今後も強力な国家を維持増進できるのか?
現状の共産党一党独裁体制のままでは、sustainableな内部成長は不可能だと欧米からは指摘される。
ただ、sustainableな内部成長は、米国への輸出に依存しない内部成長(=内需の牽引する経済成長)だが、日本でも欧州でも達成していないので、中国にできないからといって、一党独裁政治体制が原因とは言えない。

歴史的に言えば、法の支配と財産権の不可侵は「特定のエリート層のみが享受できる特権」であった事が古今東西の常識だ。

そういう不完全な状況であっても、一定期間はそれなりの経済成長を生み出せたのも歴史的な事実である。
現代の中国は、ほどほどの財産権とほどほどの法の支配という状況(=法の支配と財産権の不可侵は「特定のエリート層のみが享受できる特権」に近い)だが、1978年の改革開放路線の採用を起点に高い経済成長が始まり、現在でも3-6%の成長を維持している。歴史的な時間軸で言えば、たかだか50年にも満たない短期間の繁栄なのかもしれないのが。
 
(3)共産党独裁体制は盤石か?
昔の中国では皇帝に天命が与えられたが、皇帝は一人の人間であり、人的な信用を失えば別の人物に天命が移ったと認識されて別の王朝が成立した。

今の皇帝的な地位は共産党のトップである国家主席の習近平だが、国家主席は10年制限という制度になっており、その制度的な柔軟性(=皇帝が10年で交代する)が新陳代謝と競争を生んでおり、共産党一党独裁体制は意外に長寿の可能性がある。

また中国共産党は
9000万人の党員を要する「皇帝を生むため」の実績重視の強烈な競争社会であり、その意味でもなかなか倒れない可能性がある。

しかも、経済的に儲かる資本主義を学んだ共産党、共産主義思想に拘泥しない柔軟な共産党、資本主義経済の甘い蜜を独占できる共産党という現状は、中国共産党は「社会主義の殻を被った資本主義国家中国」の支配者であるという解釈もできる。

共産党自体が既得権益層だが、一部の先進的な共産党員は自由化(さらには民主化)によって権益を増大させる可能性があるものの、大半の共産党員は自由化になると新興勢力との戦いに敗れて権益を失う。
それゆえ9000万人の組織が現状維持を正当化する行動に邁進することになる。中国共産党は「派閥は多いが権力維持という一点では結束する日本の自民党」にソックリでもある。

中国において国民の不満レベルを観察測定できるのは、デモの数や規模である。それを一般大衆が外部的に観察可能だから、為政者は非常に気にする。中国国内のデモに関しては我々も注意深い観察が必要だろう。

毛沢東をもってしても、粛清と密告制度による恐怖政治は10年間しか維持できなかった。もし当時と同レベルで国民の不満が高まれば、数年で変化が発生すると判断するのが妥当だろう。

(4)民主化に向けた社会的な動員が起こるか?
中国における「法」とは、天命を持つ皇帝の言葉であった。現在では、共産党に天命があり彼らの決めるものが法であると受け入れられている。

中国のこれまでの経済発展は、「法の支配」を少々前進させたが、それは、財産権の保護や契約の順守は、WTO加盟に伴う外国資本の受け入れが必要だったからであり、そのような対外関係とは無関係の分野や地域では旧態然とした西欧的基準からすれば無法地帯の状態が続いている。

都市部では近代化が進み一定の「法の支配」が存在するが、地方の農村部では理不尽な個人の恣意性による統治が残っており、共産党の不当な統治に不満を持つデモや集会の多発につながっているようだ。

メディア報道に対する規制が厳しい中国では、TVや新聞では真実が報道されないので、本当のことを知るためにSNSを通じた情報収集が盛んだ。SNSを通じて真実を知った中国国民が「民主化を求めて立ち上がるほどの状況か?」というと、そこまでには至っていないと思われる。

現状では1978年移行の改革開放路線が一定の成果を生み、衣食住に関して豊かになったことを実感している中国国民が多数を占めているからだろう。

将来的に毛沢東の文化大革命期のように経済不振が長期化し、国民の生活に不満が累積する状況が生ずれば、「独裁体制を否定して国民の政治参加を要求する動き」が生じるかもしれないが、現状はそこまでには至っていない

(5)対外強硬路線を変えられない共産党のお家の事情
最近の中国の国際政治における発言や行動は、核心的利益という言葉で中国の権益を諸外国に無理強いし、武力をちらつかせて周辺弱小国を威嚇し、もしくは巨額の経済援助を通じて政治的に買収する行動になっている。外国からの批判には感情的で高圧的な反発をしている。

共産党は1840年のアヘン戦争から抗日戦争への勝利までの時代を「外国勢力に蹂躙された恥辱の100年」と位置づけ、そんな恥辱が二度と起こらないような軍事経済の大国にする決意を持っている。

現在の政権が対外的な交渉で柔軟な態度を見せると、党内の政治的なライバルが国民を先導して「政府の弱腰」を非難する傾向があり、政府としても強硬な言動を採用せざるをえない。

(6)民主化を促進する外圧や制裁があるか
国力の源泉、経済力軍事力の源泉は、人、技術、資源、情報であるが、かつては独占が可能だった。
これらを地理的に移転させることが困難だったからだ。
例えば農業技術のメソポタミアからエジプトへの移転には2000年を要している。アッシリアは鉄の生産を国家秘密にして長期間の繁栄を維持した。他国は青銅製の武器しか持たないので、鉄製の武器は無敵だった。

しかし、かつては困難であった設計図、素材、工作機械、製造技術、技術者の国境を越えた移転は、通信技術の進歩、移動輸送手段と高速通信手段が発明され、かつコストが劇的に低下したことにより、簡単に移動できるようになった。
その結果、人、技術、資源、情報の独占が以前よりも困難になり、国際政治における優位性を確保するための手段が変化した。

現在では、新技術、新製品、新産業を実現するために必要な巨額の資金を安価に得ることが重要な国家戦略になっている。
製造機器や原材料の購入を輸入する場合、工場建設の資金を確保する場合、しかもその資金を海外に依存する場合など、そのファイナンスを許可するか否かに関して金融的な支配権を持つことは重要だ。

中国の民主化を求める欧米諸国が、中国が必要とする開発案件のファイナンスに圧力かけて資金調達を妨害する可能性は否定できない。


もしくは、次に中国が金融で困難に直面する時、USは手助けを遅らせる可能性がある。かつて米国は、1998年のロシア危機に際して、ルービン財務長官はロシアが破たんするのを見届けてから救済措置に許可を出した。
次期大統領がヒラリー・クリントンであれトランプであれ、米国は中国に対して同様なことをするだろう。