2015年6月1日月曜日

地政学リスクの基礎知識(7)足元でくすぶっている問題

(1)ISは消滅する可能性があるが、問題は深刻化へ

ISの兵士は月500ドルの給料を支給される傭兵だ。
IS掃討作戦が始まって以来、500ドルの月給を兵士に支払うための収入源が徐々に消えている。
サウジからの資金は細り、石油精製工場が破壊され石油製品の売却代金も枯渇気味、誘拐身代金を得ることも困難になった。


給料がもらえなくなったら、ISの兵士は出身国に帰るだろう。
武器を持って帰国するIS兵士は、出身国内で困った問題を引き引き起こすだろう。
帰国者が最も多くなると言われているのがサウジだ。そもそも過激な思想をもった若者を海外に追い出して活動させ、国内の平穏を得るのがサウジの戦略だった。古くはアフガンのビンラディン、そして現在はISという流れだ。
過激な思想の若者は、国内では王族の奢侈な生活や権益の独占による貧富の格差を非難して暴力テロを起こす可能性が高い。だから、サウジは過激な思想の若者を帰国させたくない。ISが消滅することはサウジの国益に反すると考えているだろう。


(2)宗派対立に主軸が移りつつあるIS問題
イスラム教の二大宗派は、多数を占めるスンニ派と少数派のシーア派だ。イラクとシリアにおける「IS掃討作戦」においても、サウジはスンニ派であるISを完全消滅に追い込みたくない、温存したいと考えているようだ。

ISの戦闘員はサウジ出身者が多く、これまでも密かに多額の資金援助を行ってきたので、今後も対シーア派の活動要員としてISを活用したいのだ。

サウジの中東域内での国際戦略は過激さを増している。
隣国イエメンにおけるシーア派とスンニ派の内戦に対しても、サウジはスンニ派連合軍を率いて(事実上はサウジ単独に近い)、スンニ派の暫定政権に肩入れし、シーア派の軍事部隊を越境攻撃している。シーア派の軍事部隊が宗教上の宿敵イランの資金と軍事援助を受けているからだ。


(3)共通の敵が消えると仲間割れが始まる
ISと言う共通の敵が消えると中東アフリカ各国の内部事情や隣国との間に抱える摩擦が表に出て来て、かえって混迷と内部対立が深まるだろう。

2010年に独裁政権国家から民主主国家へ変わると期待された「中東アフリカの春」は「独裁政権は去ったが、内戦と混迷が来た」という悲惨な結果に終わり、各国とも政治経済の低迷に苦しんでいる。

民衆は経済面で不満を持っており、その不満の矛先をそらす為にも、各国政府は隣国との対立感情をあおるだろう。小競り合いかも知れないが軍事衝突を政治的に利用することになる。テロ活動や内戦などは、長期化し混迷を深めてしまうだろう。

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