2015年6月1日月曜日

地政学リスクの基礎知識(6)ウクライナ危機は、キューバ危機と同じ“旧来のパワーゲーム”

(1)ウクライナ危機は、EUのやりすぎに対するロシアの引くに引けぬ対応
EU、そしてNATO(北大西洋条約機構)は1991年のソ連の崩壊以降、ソ連の旧衛星国に勢力を拡大した。いわゆる西側陣営の勢力が大きく伸張した。


1991年に崩壊したソ連はロシアになったが、ロシアはUSや欧州を信頼しながら政治と経済の改革を進める苦難の道を歩んだ。
しかしUSや欧州は、旧ソ連圏の国々を「資本主義化&民主主義化」する事にだけ興味がありロシア経済の弱体化とロシア社会の混乱を黙認(もしくは歓迎)する姿勢を続けた。


特に、1998年のロシア危機に際してUSのルービン財務長官はロシアの救済を意図的に遅らせて、ロシアを経済破綻に追い込んだ。それがUSの国益に資すると判断したからだ。

その後もEUとNATOは、東欧中欧国家を自陣営に取り込んで、ロシアとの国境に迫った。軍事面では、旧ソ連圏の国家をNATOに加盟させ、その国土にNATOの基地やミサイル防衛網(対ロシア戦略)を配備させた。

旧ソ連の衛星国が親欧州国家になりNATOに加盟して、ロシアと直接国境を接するまでに拡大した事に、ロシアは苛立ちと怒りを覚えた。

特にウクライナは、ロシア発祥の地でありモスクワのすぐ近くである。
ウクライナがEUとNATO加盟に加盟し、対ロシアのミサイル配備という状況になることは、ロシアにとっては絶対に許せなかった。


( 下図、NATO加盟国の増加の様子、ウィキペディアより、http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%97%E5%A4%A7%E8%A5%BF%E6%B4%8B%E6%9D%A1%E7%B4%84%E6%A9%9F%E6%A7%8B )




(2)キューバ危機(1962年)は、ソ連のやりすぎに対するUSの引くに引けぬ対応だった


現在のウクライナに対するロシアの国際政治上の過激な反応に類似する事件が、1962年にあった。キューバ危機だ。

現在のウクライナ危機は、1962年のキューバ危機に類似しているのだ。
ソ連が同盟国キューバに核ミサイル基地を建設しよう計画したことに対し、USが激しく反発した。




( 上図、ウィキペディア、写真は建設中の核ミサイル基地
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%90%E5%8D%B1%E6%A9%9F )


キューバに核ミサイルが配備されると、キューバから発射される核ミサイルで全米が核の脅威にさらされる
ウクライナからのミサイルでモスクワが攻撃されるという現在のロシアの懸念と同じだ。当時のソ連が計画したことは、現在欧米がロシアに向けて配備を進めているミサイル防衛網と同じなのだ。


1962年10月、米ソは協議を重ねた。そしてソ連が妥協策を提案した。
アメリカがキューバに対する軍事行動をせず、トルコに配備されているミサイルを撤退すれば、ソ連はキューバの核ミサイルを撤退させるというものだった。


交渉中の10月27日、キューバ上空を偵察飛行していたアメリカ空軍のロッキードU-2偵察機が、ソ連軍の地対空ミサイルで撃墜された。アメリカ海軍は海上封鎖線上で、ソ連の核魚雷を搭載する潜水艦対し爆雷攻撃した。攻撃を受けた潜水艦には核魚雷が搭載されており、その発射寸前までいったが、ソ連の潜水艦隊参謀の自重によって核戦争は回避された。この日は「暗黒の土曜日」と呼ばれ、三次世界大戦の勃発を覚悟した日と言われている。


10月28日フルシチョフ首相はモスクワ放送でミサイル撤去の決定を発表した。
フルシチョフはケネディの条件を受け入れ、キューバに建設中だったミサイル基地やミサイルを解体した。
ケネディもキューバへの武力侵攻はしないことを約束、その後1963年4月にトルコにあるNATO軍のミサイルを撤去した。


当時のUSにとってのキューバは、現在のロシアにとってのウクライナである。
こう考えれば、ウクライナはNATOに入れないだろう。
1:ロシアは入られると絶対に困る
2:USも、無茶な行動をするウクライナを入れたら不要な戦争に発展するから困ると考えているだろう。


また、ロシアがクリミアを併合したことに、欧米が実力行使をしない背景も、ウクライナの無茶な行動が引き起こす東西の直接対決戦争のリスクが極めて高いことを考慮してのことである。

なおクリミア関連に関しては、過去レポートを参照いただきたい。

1:ウクライナ問題:歴史(1)
2:ウクライナ問題:歴史(2)
3:ウクライナ問題:紛争の現状と背景
4:ウクライナ問題:ロシアとドイツの関係
5:ウクライナ問題:投資に与える影響
6:その他

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